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 2月9日(金)にVictoires de la musiqueが開催されました。これは米国のグラミー賞や日本のレコード大賞に当たるようなフランスの音楽賞で、1985年に創設されたものです。創設当時は音楽全般を大賞とした賞でしたが、1994年にクラシックとジャズが別枠になり、それ以後はポップス、ロック、アーバンミュージック、エレクトロ音楽、ワールドミュージックを対象とした賞になっています。これまではパリのゼニットというコンサート会場で授賞式が行われることが多かったのですが、今年はセーヌ・ミュジカルというパリ郊外のブーローニュビランクールに去年できたばかりの施設が会場でした。
 33回目に当たる今年のヴィクトワール賞はラッパーの活躍が目立ちました。特にノルマンディ出身の白人ラッパー、オレルサン(1985年生まれ)は「今年の男性アーティスト賞」、「今年のアーバンミュージックアルバム賞」、「オーディオヴィジュアル作品賞(ミュージックヴィデオ)」の三つの賞を獲得しました。下馬評でもオレルサンが「今年の男性アーティスト賞」を取るだろうと云われていたので、予想通りの結果と云っていいでしょう。
 オレルサンは本名がオレリアン・コタンタン(Aurélien Cotentin)で、アーティスト名が日本風の仇名「オレルさん」。ツイッターのプロフィールにも「オレルさん」と仮名で書いてあります。賞を取ったアルバムLa fête est finie(パーティは終わった)は三枚目のアルバムで、30代半ばになった白人ラッパーのアイデンティティについて自問する傑作アルバムです。このアルバムの収録曲Basiqueのミュージックヴィデオはウクライナのキエフの建設中の橋の上で撮影したもので、ドローンによるワンカットの映像が話題になり、今回の賞を獲得しました。

 ヴィクトワール賞で歌ったのはアルバムの一曲目「サン」で、題名は日本語の「さん」(「三」と接尾辞の「さん」)からきています。

 「今年の男性アーティスト賞」にノミネートされていたのは、オレルサンの他に1946年生まれのベテラン歌手、ベルナール・ラヴィリエと、元プシキャトル・ド・ラ・リューのマルセイユ出身のコモロ系ラッパー、ソプラノ(1979年生まれ)で、三人中二人がラッパーでした。他に「今年のオリジナル歌曲賞」はトゥールーズの若手兄弟ラッパーデュオ(父親がアルゼンチン人で母親がアルジェリア系フランス人)、ビッグフロ・エ・オリ(93年と96年生まれ)のDommage(ストロマエが共作)が取り、「今年の新人アーティスト賞」は作家としても活躍するブルンジ生まれのラッパー、ガエル・ファイユ(1982年生まれ)が獲得しました。


 こういったラップシーンの元気さを反映してか、意外にもフランスのラップの創始者のベテランMCソラール(1969年生まれ)の十年ぶりのアルバムGéopolitique(地政学)が「今年の歌ものアルバム賞」を取りました。フランスのラップは90年代の中頃にブームになり、21世紀に入ってからはセールス的にはよくても「ラップを聴く人しか聴かない」というゲットー化が進んでいましたが、ここ数年は再びシーンの前面に再浮上してきて、約二十年ぶりに「誰でもラップを聴く」ようになりました。今回のヴィクトワール賞はこういった状況を反映していると云えるでしょう。
 ラップ以外では、「今年の女性アーティスト賞」はシャルロット・ゲンズブール(1971年生まれ)が取りました。Restは6年ぶりのアルバムですが、ずっと英語で歌うアルバムを出してきた彼女にとって、久しぶりにフランス語の歌に戻った作品です。

 「今年の新人アルバム賞」は、元来趣味がよくないものと考えられてきたヴァリエテと呼ばれる庶民派ポップスを換骨奪胎して高く評価された女性アーティスト、ジュリエット・アルマネ(1984年生まれ)のPetite amieでした。

 「今年のワールドミュージックアルバム賞」は、Mことマチユ・シェディッド(1971年生まれ)がコラ奏者のディアバテ親子らのマリのミュージシャンと録音したLamomali(「マリにある魂(l’âme au Mali)」か)、「今年のエレクトロ音楽・ダンス音楽のアルバム賞」は90年代から地道に活動を続けていたドミニク・ダルカン(1964年生まれ)のTemperanceが取りました。

 ドミニク・ダルカンが現在やっている音楽が国営テレビで流れたことには意味があるでしょう。

 エチエンヌ・ダオは今回名誉賞を獲得しましたが、去年のアルバムBlitzは傑作だったので、「今年の男性アーティスト賞」にノミネートされてもよかったのではないでしょうか。これはエディ・ド・プレト、ジュリエット・アルマネ、BBブリューヌという3組のアーティストによるオマージュのメドレーです。

 この他に、「今年のロックアルバム賞」は2005年にアルバムデビューした人気グループ、シャカ・ポンクの6枚目のアルバムThe Evol’、「今年の音楽劇、ツアー、コンサート賞」は去年6年ぶりのスタジオアルバムOUÏを出した女性アーティスト、カミーユが取っています。さっきシャルロット・ゲンズブールがフランス語の歌に戻ってきたと云ったけれど、このカミーユのアルバムもほとんどの曲が英語だったので、これからフランス語に回帰するアーティストが増えるのかもしれません。

 ヴィクトワール賞は日本のレコード大賞のようなもので、音楽業界の年中行事という性格が強く、フランスの音楽の一面しか見せないものですが、それでもまったくつまらないというわけでもありません。今回は新しい発見というものはなかったけれども、賞は取らなかったものの去年発表した作品が優れていたアーティストの映像を幾つか貼っておきます。
 「今年の新人アーティスト賞」にノミネートされていた女性アーティストのフィッシュバック(1991年生まれ)は、カス・プロダクトなどの80年代のコールドウェイヴの衣鉢を継ぐような音楽で、これからも注目が必要なアーティストです。

 この新人賞にノミネートされていた三人目がエディ・ド・プレト(1991年生まれ)で、ラップを通過した歌を力強い声で歌います。まだEP一枚しか出していないので、3月に出る予定のアルバムが楽しみです。

 「今年の歌ものアルバム賞」にノミネートされていたアルバン・ド・ラシモーヌ(1970年生まれ)は、ようやく実力に見合った傑作L’un de nousを出しました。賞をとるべきなのはMCソラールじゃなくてこっちでしょう。

 「今年の新人アルバム賞」にノミネートされていたプチ・ビスキュイのSunset Loverが、今回ノミネートされていた中では世界でいちばんヒットした曲かもしれません。1999年生まれでまだ18歳のエレクトロミュージシャンです。

 今回のヴィクトワール賞では、去年の12月に亡くなったジョニー・アリデーと今年の1月に亡くなったフランス・ギャルにオマージュが捧げられました。最後にその動画を貼って、改めてご冥福をお祈りします。


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