2019年のフランス音楽ヴィクトワール賞

　先週の金曜日2月8日にフランスの音楽賞Victoires de la musiqueの授賞式が開催されました。今年は34回目で、去年に続いてセーヌ・ミュジカルという会場が舞台でした。

　今年のヴィクトワール賞の「男性アーティスト賞」はエディ・ド・プレト、「女性アーティスト賞」はクリスティーヌ＆ザ・クイーンズが有力だと思われていましたが、下馬評に反してこの二人は受賞を逃しました。

　この二人に代わって受賞したのは、男性アーティスト賞が去年Dommageで「今年のオリジナル歌曲賞」を受賞した兄弟ラッパーデュオビッグフロ・エ・オリ、女性アーティスト賞は英語で歌う1980年生まれのロック歌手、ジャンヌ・アデッドでした。ビッグフロ・エ・オリは人気者ですが、ジャンヌ・アデッドはそれほど一般に有名だというわけではないので意外な受賞だったと云えるかもしれません。ジャンヌ・アデッドはRadiateでロックアルバム賞も受賞しました。ビッグフロ・エ・オリはサードアルバムLa vie de rêveで「アーバンミュージック賞」も獲得しています。

　去年の「男性アーティスト賞」はオレルサンだったので、ラッパーが二年連続でこのカテゴリーの賞をとったことになり、これは初めてのことです。ここ数年のフランスではラップがメインストリームの音楽になったことがこのことからもわかりますね。

　ちなみにそれぞれのカテゴリーでノミネートされるアーティストは3組ですが、男性アーティスト賞のもう一人の候補者は2017年に優れたアルバムBlitzを出したベテランのエチエンヌ・ダオ、女性アーティスト賞のもう一人の候補者はヴァネッサ・パラディでした。

　今年新設されたカテゴリー、ラップアルバム賞を受賞したのはキンシャサ生まれのベルギーのラッパー、ダムソーのLithopédienでした。このカテゴリーでは他にモア・ラ・スクアールのBenderoとジョルジオのXX5がノミネートされていました。私はジョルジオが好きですが、この記念すべき第一回の賞を評価が高いダムソーが受賞したことは順当と云えるでしょう。

　「新人アルバム賞」と「オリジナルヴィデオ賞」の二つを獲得したのはベルギーの女性歌手、アンジェルでした。アンジェルは去年の音楽シーンをいちばんよく象徴する存在だったので、受賞は当然と思われます。このカテゴリーでは他にフォエのÎl、ロニ・アルテールのアーティスト名を冠したデビューアルバムもノミネートされていました。

　「新人アーティスト賞」を獲得したのはクララ・ルチャーニでした。デビューアルバムSainte-Victoireも大変よいアルバムだったので納得の行く受賞ですが、このカテゴリーにノミネートされていた他の二組、テラピー・タクシーとティム・ダップもクララ・ルチャーニに劣らず面白いアーティストなので、三組ともこれからの活躍が期待されます。

　「歌ものアルバム賞」を獲得したのは2009年に亡くなったアラン・バシュングの死後発表のアルバムEn amontでした。この賞を故人のアルバムがとるのは初めてのことですが、この賞によってバシュングはヴィクトワール賞を13個受賞したことになリ、Mことマチユ・シェディッドと並ぶ最多受賞者になりました。

　「ワールドミュージックアルバム賞」はカメリアジョルダナのLOSTが受賞しました。LOSTは私も好きないいアルバムですが、テレビのオーディション番組でデビューした人気歌手がここ数年のテロ事件などによって自分がアルジェリア系であることのために感じるフランス社会における差別を自覚するようになってつくった今回のアルバムは、ワールドミュージック枠以外の「フランス音楽」のカテゴリーにノミネートされるべきだったと思います。

　「コンサート賞」は去年「今年の男性アーティスト賞」をとったラッパーのオレルサンでした。

　「エレクトロ音楽アルバム賞」はザ・ブレイズのデビューアルバムDancehallでした。

　「オリジナル歌曲賞」は人気グループ、ブールヴァール・デゼールのJe me dis que toi aussiでした。

　この授賞式では去年亡くなった歌手、シャルル・アズナヴールやジャック・イジュランなどにオマージュが捧げられました。イジュランに歌を捧げたのはイジアとアルチュール・Hという二人の子供でした。

　盛り上がりに欠ける授賞式ではありましたが、外国で妙に評価が高いクリスティーヌ＆ザ・クイーンズが何も受賞しなかったり、大ベストセラーになったジョニー・アリデーの死後発表作はノミネートされていないのにアラン・バシュングの死後発表作が重要な賞を受賞したりと、それなりにフランスの賞らしいひねくれた結果になったのではないかと思います。