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 1943年にイタリア、シチリア島のコーミゾに生まれたベルギー人の歌手、サルヴァトーレ・アダモが1963年に発表した歌、「雪が降る」は日本で大変に人気が高い歌です。アダモの名前はサルヴァトールと書かれることが多いようですが、今のフランス人はフランス語に見えない固有名詞を現地語風に読む傾向があることから、このSalvatoreという名前はサルヴァトーレと読まれることの方が多いと思われるので、ここではサルヴァトーレとしておきます。

 この歌が日本で人気があることはアダモ自身のよく語るところです。テレビ番組にゲストで出演したときにこんなエピソードを語っていました。日本でのコンサートのために日本の航空会社の飛行機に乗っていましたが、機内の音楽プログラムを聴いていると「雪が降る」の知らないオーケストラヴァージョンが流れました。アダモはこのヴァージョンが気に入ったので、日本人のスチュワーデスにこれは誰が演奏しているのかと聞きました。しかしこのスチュワーデスはアダモのことを知らないばかりか質問の意味がよくわからなかったようで、しばらくして戻ってくるとThis is a Japanese traditional song!と答えたそうです。日本ではこの歌があまりによく知られているために、日本人がもはやこれが日本の歌だと思っているということを面白そうに語っていました。

 ではこの歌はどうしてこんなに日本で人気があるのでしょうか。その理由はフランス語の歌詞そのものにあります。この歌はこの言葉で始まります。

Tombe la neige. Tu ne viendras pas ce soir.

 これを音節に分けるとTom/be/la/nei/ge – Tu/ne/vien/dras/pas/ce/soirで、見事に五七調になっています。もっともこの出だしを除くと全体が五七調というわけではありませんが、歌の出だしが五七調でぴったりはまっていたことが日本での成功の原因だったと考えて間違いではないでしょう。

 この歌は実際にアダモが女性に振られて雪の中をさまよっていたときのことを歌にしたものだそうですが、それが世界的な大ヒットになったので、まさに「災い転じて福となす」という感じでしょうか。

 ではこの歌の歌詞を見ていきましょう。最初に提示するのは「直訳」で、最後にもう少しこなれた全体の訳を示します。歌詞全体はこちらのリンクでどうぞ。

Tombe la neige

Tu ne viendras pas ce soir

Tombe la neige

Et mon cœur s’habille de noir

Ce soyeux cortège

Tout en larmes blanches

L’oiseau sur la branche

Pleure le sortilège

Soyeux (adj.)◇絹のような。/Cortège (n. m.)◇お供の一団、行列/Sortilège (n. m.)◇魔力、呪い

雪は降る

あなたは今晩来ないだろう

雪は降る

そして私の心は黒い服を着る

この音を立てない行列は

みんな白い涙を流し

枝に止まった鳥が

魔法を泣く

 まずTombe la neigeは主語と動詞を倒置したものです。

 Soyeux cortègeはわかりにくいですが、cortègeは王様や女王様に付き従う行列のイメージです。ここでsoyeuxはお付きの人々が静かに衣擦れの音だけをたてて歩いていく様子を示すものでしょうが、雪がしんしんと降っている様子をこのようにたとえているのでしょう。

 Pleurer le sortilègeという言葉には二種類の解釈の可能性があります。魔法が不都合なもの、望ましからざるものであるとしてこの魔法を嘆くという場合と、まるで涙を流すようにして魔法をひねり出すという場合です。いずれにせよ、この歌の主人公は何らかの魔法によって雪が降っているものだと考えているようです。ここで上のcortègeという言葉を思い出してみると、雪の女王の魔法によって雪が降っている場面が想像できるかもしれません。

 この歌の主人公はやって来ない女性のことを氷の心をもった雪の女王にたとえ、音もたてずに降りしきる雪のことをこの女王の手下のようなものと考えているのかもしれません。枝に止まった鳥もやはり手下だとすると、雪を降らせる魔法を歌うことになりますが、主人公に同情しているのでその声は涙声になってしまいます。鳥が魔法について嘆いていると考えるよりはこのように考えた方がいいように思われます。

 これが作者の望んだ解釈であるかどうかはわかりませんが、少なくとも雪が降るのが魔法のせいであるのが確かであり、鳥が擬人化されていることからも、何らかの民話や童話を想像させるものであることは確かです。

Tu ne viendras pas ce soir

Me crie mon désespoir

Mais tombe la neige

Impassible manège

Impassible (adj.)◇平然とした/Manège (n. m.)◇やり口

あなたは今晩来ないだろう

私の絶望が私に叫ぶ

しかし雪が降っている

無情なやり口だ

 Me crie mon désespoirもTombe la neigeと同様に主語と動詞が倒置されています。

 Impassible manègeもまたわかりにくい表現です。Impassibleはpassif「受け身の」やpassion「情熱、受難」などと通じる単語で、「感情に動かされない」ことを意味します。Manègeは恋愛における「駆け引き」を意味する言葉ですが、ここでは雪を降らせることがこのような手管であると考えられているようです。この歌の主人公がいくら懇願しても全く相手にしない冷たい女が雪を降らせているという発想なのでしょう。

Tombe la neige

Tu ne viendras pas ce soir

Tombe la neige

Tout est blanc de désespoir

Triste certitude

Le froid et l’absence

Cet odieux silence

Blanche solitude

雪は降る

あなたは今晩来ないだろう

雪は降る

全てが絶望で白い

悲しき確信

寒さと不在

この醜い沈黙

白い孤独

 非常に省略的な言葉が印象的です。Triste certitudeはただ「悲しき確信」という意味ですが、「悲しいけれどもあなたが来ないのは間違いない」ということを言い、ただ「寒さと不在」ということを言うLe froid est l’absenceは「こんなに寒いのにあなたはいない」ということを意味しています。「白い孤独」も圧縮的な表現で雪の中にただひとりたたずむ主人公の姿を描き出しています。

Tu ne viendras pas ce soir

Me crie mon désespoir

Mais tombe la neige

Impassible manège

これは繰り返しですね。

最後に歌詞の全訳です。

雪が降る(サルヴァトーレ・アダモ)

雪は降る

今宵あなたは来ない

雪は降る

私の心は黒衣をまとう

この静かな行進は

白い涙をたたえ

枝に止まった鳥が

涙声で魔法を唱える

今宵あなたは来ない

絶望の叫びが聞こえる

それでも雪は降る

無情なやり口だ

雪は降る

今宵あなたは来ない

雪は降る

一面絶望で真っ白だ

悲しいが間違いない

こんなにも寒いのにあなたはいない

この醜悪な沈黙

真っ白な孤独

今宵あなたは来ない

絶望の叫びが聞こえる

それでも雪は降る

無情なやり口だ

 フランスの古い伝統として、男性が女性に対して「ああ、あなたはなんて冷たいんだ」といって口説くというものがあり、そのような手紙が歴史上には多く存在しますが、この歌にはそのような伝統を踏まえた部分もあるように思われます。


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