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スュザーヌ(Suzane)は本名をオセアーヌ・コロン(Océane Colom)という南仏アヴィニョン出身のフランス人女性歌手。アーティスト名は母方の祖母の名前Suzanneをいただいたそうですが、Nを一つにしています。生年月日はわかりませんが、2019年現在で28歳のエレクトロポップのミュージシャンで、まだEPが一枚あるだけでフルアルバムは今年の1月24日に発売予定ということですが、去年の夏の音楽フェスティヴァルにはいちばん数多く出場したという人気者で、注目を集めています。215日に授賞式が行われる2020年のヴィクトワール賞では、アロイーズ・ソヴァージュ、ホシとともに新人アーティスト賞にノミネートされています。いつも同じトレードマークの青い衣装を着ているというわかりやすさが人気の秘密でしょうか。それでもまだフランス語版ウィキペディアにも記事がないので、これから人気と実力を証明する必要があるでしょう。
 このIl est où le SAV ?という歌はスュザーヌがコンゴのキンシャサ生まれのベルギー人ミュージシャン、テメ・タンことタンギー・アズブーツのラップをフィーチュアしたもので、2019年の11月に発表されました。ちなみにテメ・タンというアーティスト名は日本人につけられた渾名だそうです。アフリカ音楽の要素を取り入れた簡素でローファイなポップスをやっていて、マチユ・ボガルツと似た傾向の音楽であると云えます。テメ・タンの方は2017年にデビューアルバムを発表しています。
 この歌の題名にあるSAVということばはservice après-vente(アフターサービス)のことで、「アフターサービスはどこ?」というのが題名の意味です。ここで問題になっているアフターサービスは「壊れてしまった地球」のアフターサービスで、これは環境問題を歌った歌なのです。ツアーで中国を訪れたスュザーヌは北京の空がスモッグで覆われているのを見て、環境問題を扱った歌をつくろうと思いつきました。印象的なヴィデオクリップはセネガルのダカールの近くのンブーブース(Mbeubeuss)というところにある巨大なごみ捨て場で撮影されました。これはセネガルで大きな環境問題になっているごみ捨て場で、ここを訪れたスュザーヌは生活のためにごみを拾い集めてこのごみ捨て場の中で生活している人々がいることにショックを受けたということです。
 これがそのヴィデオクリップです。字幕をフランス語にするとAI聞き取りではない正しい字幕が出ます。

それではこれから歌詞を小分けにして訳していきましょう。まず歌詞を説明しながら直訳に近いものを提示し、最後にもう少しこなれた全訳を示します。面倒臭い人は解説を飛ばしてください。

Il est où le SAV ?

SAV (n. m.)◇「アフターサービス」の意味で、service après-venteの略号(sigle)

アフターサービスはどこ?

これが題名です。

 Il est où ?は話しことばで、教科書的にはOù est-il ?Où il est ?という言い方も可能。

On a cassé la planète, il est où le SAV ?
On a cassé la planète, et ça tout le monde savait

planète (n. f.)◇「惑星」の意味だが、「地球」(la [planète] Terre)の意味でもよく用いる。

地球を壊してしまった、アフターサービスはどこにある
地球を壊してしまった、それはみんな知っていた

これはリフレインから始まる歌です。

 Onは主語にしか用いられない代名詞で、一般的な「人」を意味します。これが主語の場合「地球が壊れた」と訳すのが常道ですが、ここでは「壊す」という能動のニュアンスを出した方がいいかもしれません。

二行目のça tout le monde savaitは直接目的補語çaを倒置することによって「そんなことはみんな知っていたでしょ?」というニュアンスを強めています。
 SAVの発音は[ɛsave]で、発音上は語頭の音が母音ですが、定冠詞がついてもリエゾンすることはありません。それは省略していないle serviceにならったものです。このSAVsavaitが韻を踏んでいます。SAV[ɛsave]であるのに対してsavaitの発音は[savɛ]なので正しい韻ではありませんが、流行歌では韻の規則が緩いです。

Dans la vie, y a des cactus, et sur ces mêmes cactus, depuis y a du plastique, aïe
Sur les plages de Koh-Lanta, derrière les candidats, c’est pas si idyllique
Y a des pailles McDo qui sirotent sur l’eau, Coca plastique qui flotte sur le Pacifique
Un Capri-Sun à la dérive, qui finit sur la rive dans la bouche d’une tortue

Koh-Lanta (n. pr.)◇元はタイにあるランタ島のことだが、フランスでは2001年から民放テレビ局TF1で現在にいたるまで毎年放映されているテレビ番組の題名で、世界各国で放映されている一般人参加の番組『サバイバー』のフランス版。現代文明の利器の存在しない生活を孤島などで参加者が体験する。
McDo (n. pr.)
マクドナルド(McDonald’s)の略語。
Siroter (v.)
ちびちび飲む
Capri-Sun (n. pr.)
日本でもむかし「カプリソーネ」の名前で売っていたドイツの清涼飲料。

人生にはサボテンがあるが、この同じサボテンの上に、今はプラスチックがある、あらあら
『コランタ』の海岸は、参加者の後ろはそれほど牧歌的ではない
マックのストローが水上でちびちび飲み、プラスチックのコカコーラが太平洋に浮かぶ
漂うカプリソーネが、最後には海岸にたどり着き、亀の口に入る

突然なぜサボテンの話を始めるのかわからない人もいるでしょうが、これはフランスロックの古典であるジャック・デュトロンの歌「サボテン(Les cactus)」(1966年発表)に対する目配せです。

この「世界中はサボテンだらけで、座ることもできやしない」と歌うナンセンスソングの中にDans la vie, y a des cactus(人生にはサボテンがある)という歌詞が出てきて、aïe, aïe, aïe !と歌っています。このaïeという間投詞は「痛っ!」というような意味ですが、「あらら」という感じでも使います。この「サボテン」は全体的にはナンセンスソングですが、とげとげしい人ばかりの世知辛い世の中を歌ったものと云えるでしょう。デュトロンの歌の中でも有名なもので、多くのカヴァーがあります。60年代には生きづらさが人間関係に関わるものであったのに対し、今はプラスチックのような廃棄物が問題になっていることを「今はサボテンの上にプラスチックが引っかかっている」ということばで示していると云えるでしょう。

 Depuisはここでdorénavant(今後、これからは)と同じような意味の副詞として使われています。
 マクドナルド、コカコーラ、カプリソーネはいずれも環境に悪い人工的な食品を提供する企業ブランドとして名前が挙がっています。
 ここでのsiroterという動詞の使用は奇妙に感じられます。ストローが主語になって「ちびちび飲む」といっていますが、ストローがぷかぷか浮かんで水が出たり入ったりしている様子でしょうか。

Ça s’réchauffe, ça s’réchauffe, ça s’réchauffe
La planète a la tête en surchauffe
Ça s’réchauffe, ça s’réchauffe, ça s’réchauffe
La planète a la tête en surchauffe

気温が上がる、気温が上がる、気温が上がる
地球の頭がオーバーヒートしている
気温が上がる、気温が上がる、気温が上がる
地球の頭がオーバーヒートしている

リフレインの前のブリッジ部分ですが、歌わずにつぶやくことでどんどん気温が高くなっていっていることを表現しています。
 Ça s’réchauffeça se réchauffeのことですが、メロディの三音に対応するので脱落性のEを省略して三音節にしています。これは歌詞でよく見られる現象です。実際の発音としては、このs’が前のçaにくっついて音節をつくることに注意してください(Ça s’/ré/chauffe)

On a cassé la planète, il est où le SAV ?
On a cassé la planète, et ça tout le monde savait
On a cassé la planète, il est où le SAV ?
On a cassé la planète, et ça tout le monde savait

これはリフレインです。

Y a comme un air de chicha sur les buildings pékinois, le smog made in China
Les usines crachent leurs poumons, on est tous au premier balcon pour voir le ciel couleur béton
On mange des glaces en février, y a plus de glace sur les glaciers, les ours polaires vont transpirer
Bulldozers dans les forêts, l’orang-outan est délogé pour d’la pâte à tartiner

chicha (n. f.)◇シーシャはイスラム圏で人気の水タバコのこと。フランスでも若者に人気がある。ナルギレ(narguilé)とも呼ばれる。

北京のビルの上には水タバコの煙のようなものがある、中国製のスモッグだ
工場がゴホゴホ咳をし、みんな近くのベランダに出てコンクリート色の空を見る
二月にアイスクリームを食べ、氷河にはもう氷がなく、ホッキョクグマが汗をかくことになる
森にブルドーザーがあり、パンに塗るペーストのせいでオランウータンが追い出される

 Buildingsmogは英単語で、anglicismeですが、よく用いられます。特にbuildingについては、この場合gratte-cielを用いた方がいいかもしれません。
 Cracher ses poumonsは「肺を吐き出す」という怖い表現ですが、「激しく咳をする」の意。もとは結核患者の咳に使う表現。
 Glaceは多義語で、ここでは「アイスクリーム」と「氷」の意味で使っています。派生語のglacierは「氷河」。
 Pâte à tartinerはパンに塗るスプレッドのことですが、フランスでは特にヌテラが森林破壊の元凶と考えられています。D’la pâteは上のs’réchauffeと同様に音数を合わせるために脱落性のEを省略したものです。

Ça s’réchauffe, ça s’réchauffe, ça s’réchauffe
La planète a la tête en surchauffe
Ça s’réchauffe, ça s’réchauffe, ça s’réchauffe
La planète a la tête en surchauffe

On a cassé la planète, il est où le SAV ?
On a cassé la planète, et ça tout le monde savait
On a cassé la planète, il est où le SAV ?
On a cassé la planète, et ça tout le monde savait

La planète a la tête en surchauffe
La planète a la tête en surchauffe

この辺は前に出てきた歌詞の繰り返しですね。

ここからテメ・タンのラップになります。

J’me dis parfois : « T’façon, il est trop tard »
Que sommes-nous face à l’euro, le dollar ?
Un bout de charbon dans une marée noire
Une tumeur qui ne crée que des cauchemars

tumeur (n. f.)◇腫瘍

ときどきこう考える、どっちみちもう手遅れだ
ユーロやドルを前にした僕たちは何者だろう
重油の海の中の一片の石炭
悪夢をしか産まない腫瘍

 T’façonde toute façon(いずれにせよ)をぞんざいに発音したもの。
 ユーロやドルはもちろん巨大な世界資本のこと。そのような巨大資本の前では、環境破壊を恐れる自分たちの方が悪者に見えてしまい、自分たちもその汚染に加担していることへの不安と違和感を表明しています。
 Marée noireは石油流出事故で海岸に押し寄せる石油の波のことです。

Mais je me concentre sur ce que je veux donner
Une énergie commune qui peut rassembler
J’m’apprêtais à contacter le SAV
Mais le numéro est dévié sur ma ligne

でも僕は自分が与えたいと思っているものに集中する
人を集めることができる共通のエネルギー
アフターサービスに連絡しようとしていたけど
その番号は僕の電話に転送されている

人任せにして地球を修理してもらおうと考えたけれど、実際にはそんな担当者は存在しなくて、この問題を解決するためには自分の力を使わなければならないということが云われています。

On a cassé la planète, il est où le SAV ?
On a cassé la planète, et ça tout le monde savait
On a cassé la planète, il est où le SAV ?
On a cassé la planète, et ça tout le monde savait

このリフレインで終わります。

それでは全体の訳です。

アフターサービスはどこ?

地球を壊しちゃったけど、アフターサービスはどこにあるの
地球が壊れちゃった、本当はみんな前から知っていたけど

「人生サボテンだらけ」とデュトロンは歌ったけど、今はサボテンにプラスチックが引っかかっているよ
サバイバル番組『コランタ』の海岸を見ると自然がいっぱいという感じだけど、現実はそんなに甘くない
マクドナルドのストローが水をすすり、太平洋にはコカコーラのペットボトルが浮かぶ
カプリソーネの瓶が流れ流れて海岸にたどり着き、亀がそれを食べてしまうんだ

どんどん気温が上がっていくよ
問題ばかりで地球の頭がもう限界
どんどん気温が上がっていくよ
問題ばかりで地球の頭がもう限界

地球を壊しちゃったけど、アフターサービスはどこにあるの
地球が壊れちゃった、本当はみんな前から知っていたけど
地球を壊しちゃったけど、アフターサービスはどこにあるの
地球が壊れちゃった、本当はみんな前から知っていたけど

北京のビルの上に見えた水タバコの煙のようなものは中国製のスモッグ
ゴホゴホ煙を吐き出す工場が心配でベランダに出ると、見えるのはコンクリート色の空
二月なのにアイスを食べ、氷河に氷がなくなり、ホッキョクグマが汗をかく
ブルドーザーが森に乗り込み、ヌテラの材料のためにオランウータンを追い出す

どんどん気温が上がっていくよ
問題ばかりで地球の頭がもう限界
どんどん気温が上がっていくよ
問題ばかりで地球の頭がもう限界

地球を壊しちゃったけど、アフターサービスはどこにあるの
地球が壊れちゃった、本当はみんな前から知っていたけど
地球を壊しちゃったけど、アフターサービスはどこにあるの
地球が壊れちゃった、本当はみんな前から知っていたけど

問題ばかりで地球の頭がもう限界
問題ばかりで地球の頭がもう限界

どのみちもう手遅れだと考えることもある
ユーロやドルの力の前で僕たちは何者なのだろう
岸に押し寄せる油の中の一片の石炭
悪夢をしか産まない腫瘍のようなものなのかもしれない

でも自分の意志でできることだけに集中しよう
仲間が増やせるようなエネルギーをみんなで出そう
壊れた地球のアフターサービスに電話しようと考えたけど
その番号は僕のところに転送されるようになっていたんだ

地球を壊しちゃったけど、アフターサービスはどこにあるの
地球が壊れちゃった、本当はみんな前から知っていたけど
地球を壊しちゃったけど、アフターサービスはどこにあるの
地球が壊れちゃった、本当はみんな前から知っていたけど

スュザーヌというアーティストは今のところ「現象」のようなもので、人気が一過性のものにとどまる可能性が十分にありますが、そのような勢いのあるアーティストがこのような環境問題を扱った歌を歌うことにこそ意味があると思います。

(以上)

 アークティック・モンキーズのアレックス・ターナーのサブプロジェクト、ザ・ラスト・シャドー・パペッツによるジャック・デュトロンの「サボテン」のカヴァー。

スュザーヌよりもアロイーズ・ソヴァージュの方が圧倒的にひいきなので動画を貼っておきます。

 

 


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