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 先週の金曜日2月14日にフランスの音楽賞Victoires de la musiqueの授賞式が開催されました。会場は一昨年と去年に続いてパリ近郊ブーローニュ=ビランクールのセーヌ・ミュジカルでした。
 今回のヴィクトワール賞の特徴は、去年までと比べて賞の数がかなり減ったということです。去年は13個の賞がありましたが、今年は8個にまで減りました。なくなったのはジャンルごとのアルバム賞で、ロック、エレクトロ音楽、ワールドミュージック、アーバンミュージック、ラップのアルバム賞がなくなりました。ラップアルバム賞は去年新設されたばかりだったので、一年で姿を消したことになります。ジャンルごとの賞をなくするのは一つの見識とはいえ、全体のヴァラエティが減った感覚は否めないでしょう。
 賞の数が少なくなった代わりに一つの賞ごとのノミネート数が去年までと変わり、アルバム賞とオリジナル歌曲賞の二つについては今まで通りの3件ではなくて5件がノミネートされました。その他の賞については今までと同様にノミネートは3件でした。
 この賞の体質の古さもあいまって、市場ではラップやアーバンミュージックが人気なのに、ジャンルごとの賞が廃止されるとノミネートされるのは「白人」ばかりになるのではないかと懸念されていました。実際には白人ばかりというわけではなかったけれども、フランスのヒット音楽とは距離がある結果になりました。
 もっとも、この賞は常に市場の人気音楽とは多少ずれた性格をもっていたと考えられるかもしれません。その意味ではジャンルごとの賞の廃止はあまり大きな影響を及ぼさなかったと云えるでしょう。

 今年の「女性アーティスト賞」は去年「新人アーティスト賞」を受賞したクララ・ルチャーニでした。去年新作アルバムを出していませんが、去年のヴィクトワール後に大ヒットして活躍したので今回の受賞となりました。他にノミネートされていたのは人気者のベルギーの歌手アンジェルと元リタ・ミツコのカトリーヌ・ランジェでした。クララ・ルチャーニ本人はアンジェルが受賞するものと予想していたそうですが、私はクララ・ルチャーニでよかったと思います。
 授賞式では一昨年のデビューアルバムSainte-Victoireの去年の再発盤のボーナストラックに収録されたNueを歌いました。フランスではここのところ、CDアルバムの初回盤が出た数か月後にボーナストラックを加えた再発盤が出ることが多くあり、困っているファンが多いのではないかと思います。このアルバムSainte-Victoireの場合は、一昨年の初回盤は11曲入りでしたが、去年二度発売し直されていて、再発盤は15曲入り、再々発盤は20曲入りでした。こういうビジネスはやめてほしいものです。

 「男性アーティスト賞」はフィリップ・カトリーヌでした。カトリーヌは「アルバム賞」にConfessions、「オリジナル歌曲賞」にStone avec toiがノミネートされていました。カトリーヌはなぜか日本ではかなり昔から知られていましたが、フランスでは2005年のアルバムRobots après toutに収録のLouxor, j’adoreが最初のヒットで、本人が望んでいないほどに有名になってしまいました。2010年のアルバムPhilippe Katerineはこの思ってもいなかった成功の後の自己韜晦の極致を示すコンセプチャルな作品でしたが、2016年のLe Filmはパーソナルなトーンの誠実な作品でした。今回のアルバムはまた自己韜晦の方に揺り戻ったもので多少残念な感がありますが、ようやくカトリーヌが真剣な音楽アーティストとしてフランスで認められたということは祝福してもいいのかもしれません。
 他にノミネートされていたのは久しぶりのソロアルバムを出した国民的アーティストのアラン・スーションと才能豊かな新世代のラッパー、ロムパルでした。

 「アルバム賞」にはこの「男性アーティスト賞」にノミネートされていた3人のアルバムと、ネクフー、ヴァンサン・ドレルムのアルバムがノミネートされていましたが、1944年生まれのベテラン歌手アラン・スーションのÂme fiftiesが受賞しました。アラン・スーションは70年代からスーション作詞、友人のローラン・ヴールジー作曲のコンビで多くのヒット曲を放っていますが、近年のアルバムには二人の息子ピエール・スーションとウルスも協力しています。日本での知名度は残念ながらあまり高くありませんが、フランスでは尊敬を集めるアーティストです。

 「新人アルバム賞」は1996年リヨン生まれのフォーク歌手、ポムことクレール・ポメのセカンドアルバムLes Failles、テレビのオーディション番組、ザ・ヴォイスで女性としては初めて優勝した2001年生まれのマエルのデビューアルバム、エレクトロポップのマリック・ジュディのTempéramentsがノミネートされていましたが、受賞したのはポムでした。これは私も去年のベストに選んだものなので順当と云えるでしょう。

 「新人アーティスト賞」は去年いちばん数多く夏の音楽フェスティヴァルに出場したというスュザーヌでした。同時にノミネートされていたのはアロイーズ・ソヴァージュとホシでした。私はアロイーズ・ソヴァージュにあげたかったですが、これから頑張ってくれるでしょう。

 「オリジナル歌曲賞」はR&Bのヴィタアとスリマンの企画もののデュオ作アルバムVersuSからのシングル、Ça va, ça vientが受賞しました。他にノミネートされていたのは、上に紹介したクララ・ルチャーニのNue、カトリーヌのStone avec toi、アラン・スーションのPresqueの他に、ブールヴァールデゼールが同郷の人気歌手ヴィアネを招いたAllez, resteでした。
 この賞は例年一般人の投票によって決められるものなので、多少世の中で人気がある音楽と乖離しているこのヴィクトワール賞の中では人々の声に近いものですが、スリマンが謝辞の中で「この賞をソプラノ、ケンジ・ジラク、マット・ポコラなど、庶民の音楽をやっている才能あるアーティストに捧げる」と云ったのが象徴的でした。このことばは庶民に人気がありながらヴィクトワール賞では顧みられないアーティストたちへのオマージュだったのです。

 コンサート賞は去年「新人アルバム賞」を受賞して大活躍だったアンジェルが受賞しました。他のノミネートは去年女性アーティスト賞を受賞したジャンヌ・アデッドとヴィクトワール賞の常連である-M-ことマチユ・シェディッドでした。

 「オリジナルヴィデオ賞」は人気ラップグループPNLのAu DDでした。他にノミネートされていたのは上に紹介したアンジェルのBalance ton quoiと、2017年12月に亡くなったジョニー・アリデーと、二人のエディ・ミッチェル、ジャック・デュトロンの三大スターの2017年6月のコンサートを収録したLes Vieilles Canailles Le Liveでした。

 「名誉賞」は「サンフランシスコ」などで有名な1949年生まれのマクシム・ルフォレスティエが受賞しました。

 ラップ、アーバンミュージック、ワールドミュージックの賞を廃止することによってマイノリティが見えにくくなった今回のヴィクトワール賞ですが、フェミニスト的な歌をヒットさせたクララ・ルチャーニやアンジェル、性的マイノリティとしてのアイデンティティを歌うポムやホシなどのアーティストがその欠陥を補ったと云えるかもしれません。


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