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 2018年2月9日に授賞式セレモニーが行われたフランスの音楽ヴィクトワール賞(Les Victoires de la musique)の「今年のオリジナル楽曲賞」は、フランス南西部の大都市トゥールーズ出身の兄弟ラップデュオ、ビッグフロ&オリによるDommageが受賞しました。審査員が賞を決めるヴィクトワール賞の中で、この賞だけは一般人の投票によって決まります(1)。
 ビッグフロ・エ・オリは1993年生まれの兄フロリアンと1996年生まれの弟オリヴィオからなるオルドネーズ兄弟のデュオです。父親がアルゼンチン人で、母親がアルジェリア系フランス人ということです。スペイン語圏の名前ならばOlivio Ordonezという名前にはオリビオ・オルドネスという片仮名表記がふさわしいでしょうが、ここではフランス人の名前風にオリヴィオ・オルドネーズとしておきます。
 この兄弟デュオは2015年に発表したデビューアルバムLa Cour des grands(垂涎の的)がプラチナディスクになり、フランスのラッパーとしてのプラチナディスク獲得アーティストの最年少記録をつくりました。今回ヴィクトワール賞を受賞したDommageは2017年6月発表のセカンドアルバムLa Vraie Vie(本物の人生)の収録曲で、ベルギーの人気ミュージシャン、ストロマエ(ベルギー風の発音ではストロマイユのような読み方)との共作になっています。
 フランスのラップには俗語ばかり使っているために何を歌っているのか全くわからないものも多いですが、このDommageという歌は普通のフランス語のわかりやすい歌詞になっているので、中級フランス語程度の教材にちょうどいいでしょう(2)。この曲はラップというよりも普通にメロディがある歌になっています。最初聴いたときは特に面白くもない歌詞だと思ったのですが、改めて聴いてみるとガキ向けの歌としてはそれほどくだらないわけでもなかったので、以下にこの歌の歌詞を紹介します。まず「直訳」を提示し、最後に全訳を示すので、解説が面倒臭い人には飛ばして最後の全訳を読むことをお勧めします。

 題名のDommageは「残念」という意味で、特にかけことばなどの裏の意味はないと考えていいでしょう。よくC’est dommage(それは残念だ)という形で使いますが、一言Dommageとだけ言っても「残念だね」ということになります。この歌では4人の人物の残念な話をビッグフロとオリが交互に語ります。

Louis prend son bus, comme tous les matins
Il croisa cette même fille, avec son doux parfum
Qu’elle vienne lui parler, il l’espère tous les jours
Ce qu’il ressent au fond de lui, c’est ce qu’on appelle l’amour
Mais Louis, il est timide et elle, elle est si belle
Il ne veut pas y aller, il est collé au fond de son siège
Une fois, elle lui a souri quand elle est descendue
Et depuis ce jour-là, il ne l’a jamais revue

Croiser (v.)◇「すれ違う」。Croix(十字架)と語源が共通し、英語のcrossに相当する。/Siège (n. m.)◇「座席」。

 「ルイはいつもの朝のようにバスに乗る。彼は甘い香りのいつもと同じあの娘とすれ違った。彼女が彼に話しに来ること、彼はそれを毎日期待している。彼が心の奥で感じているものは、恋心と呼ばれるものだ。でもルイは内気で、彼女はあまりに美しすぎる。やってみようとしないで、座席の奥に貼りついている。一度、降りるときに彼女は彼に微笑みかけた。この日以後彼が彼女を再び見ることはなかった」
 Il croisaは単純過去ですが、単純過去が現代フランス語で全く使われないということはなくて、このように歌詞の中に出てくることもあります。特に文体上の意図を考えなくてもいいかとは思いますが、ここではすれ違ったことの事件性を強調していると考えられるでしょう。
 ここではmatinsとparfumが韻を踏んでいます。[ɛ̃]と[œ̃]は本来違う鼻母音ですがほぼ同一視されています。古典的な詩の韻の踏み方ではありえないことですが、現代の歌の歌詞ではよくあることでしょう。
 Qu’elle vienne lui parlerは「彼女が彼に話しに来ること」という名詞節として用いられるque節で、このような場合は必ず接続法が用いられます。Il l’espère tous les joursのl’はこの名詞節を受けています(「彼女が彼に話しに来ること、彼はそれを毎日期待している」)。もしこのように倒置しないとすれば、接続法を使わずに直説法を用います(Il espère qu’elle viendra lui parler)。
 Elle, elle est si belleでelleを繰り返しているのは強調のためで、もしjeやtuが主語であれば、moi, je suisとかtoi, tu esというのと同じ強調の仕方です。
 ここでy allerは「そこに行く」という具体的な意味ではなく、「とりかかる、やってみる」ということです。Vas-yやAllez-yなどの例を考えてみると意味がわかりやすいでしょう。
 Au fond de son siègeは文字通りには「座席の奥に」ということですが、必ずしも奥深く腰掛けているという意味ではなく、座席に座って動こうとしないことを強調するために用いられている表現です。
 次はコーラス部分です。

Ah il aurait dû y aller, il aurait dû le faire, crois-moi
On a tous dit : « Ah c’est dommage, ah c’est dommage, c’est peut-être la dernière fois ».

 「ああ、彼はやってみるべきだった。そうするべきだった。私の言うことを信じてください。みんなこう言った『ああ、残念だ、ああ、残念だ、きっとそれが最後だった』」
 Il aurait dû le faire(彼はそうするべきだった)という条件法過去を使って、過去において実現しなかったことを語っています。
 On a tous ditは口語的な言い方ですが、Ils ont tous ditあるいはTout le monde a ditと同じ意味です。

Yasmine a une belle voix, elle sait qu’elle est douée
Dans la tempête de sa vie, la musique est sa bouée
Face à ses mélodies, le monde est à ses pieds
Mais son père lui répétait : « Trouve-toi un vrai métier »
Parfois elle s’imagine sous la lumière des projecteurs
Sur la scène à recevoir les compliments et les jets de fleurs
Mais Yasmine est rouillée, coincée dans la routine
Ça lui arrive de chanter quand elle travaille à l’usine

Doué (adj.)◇「才能がある」。Doué de + qqchで「~を備えた」という意味になるけれど、単独では「天賦の才をもっている」という意味になります。/Bouée (n. f.)◇「ブイ、浮袋」。/Projecteur (n. m.)◇「投光機」。/Rouillé (adj.)◇「錆びた」。Rouille (n. f.)は「錆」。

 「ヤスミンは美しい声をしていて、自分には才能があることがわかっている。人生の嵐の中で、音楽は彼女の救命具だ。彼女のメロディを前にすると、世界がひれ伏す。しかし父親はこう繰り返していた『本物の仕事を見つけなさい』。ときどき彼女はスポットライトの光を浴びている自分のことを想像する。ステージで称賛と投げ込まれる花束を受け取る自分のことを想像する。しかしいつもの仕事に手を取られてヤスミンは錆びついてしまった。彼女は工場で働いているときに歌うことがある」
 Le monde est à ses piedsというのは、世界が彼女の足元に身を投げ出しているイメージ。
 S’imaginerは代名動詞で「自分が~であることを想像する」という意味。
 Yasmine est rouillée, coincéeと過去分詞が二つ並んでいるけれど、この二つの機能は違うもので、coincéeの方は理由を示しています。いつもの仕事のために動きが取れなくなったので(coincée)、才能が錆びついてしまった(rouillée)ということ。
 Ça lui arrive de chanterは口語的な言い方で、書きことばではIl lui arriveとするべきところです。書きことばではçaを使わないことを忘れないようにしましょう。

Ah elle aurait dû y aller, elle aurait dû le faire, crois-moi
On a tous dit : « Ah c’est dommage, ah c’est dommage, c’est peut-être la dernière fois »
Ah elle aurait dû y aller, elle aurait dû le faire, crois-moi
On a tous dit : « Ah c’est dommage, ah c’est dommage, c’est peut-être la dernière fois »

 さっきとほぼ同じコーラス部分の繰り返しですが、主語が男(il)から女(elle)に変わっています。

Diego est affalé au fond du canapé
Il engueule son petit frère quand il passe devant la télé
Ses amis sont sortis, il ne les a pas suivis
Comme souvent seul, la lune viendra lui tenir compagnie
Diego est triste il ne veut rien faire de sa nuit
Il déprime de ne pas trouver la femme de sa vie
Mais mon pauvre Diego, tu t’es tellement trompé
C’était à cette soirée que t’allais la rencontrer

Affalé (adj.)◇「倒れ込んだ」。この場合は疲れ果てて倒れ込んだのではなく、無気力ゆえに横になっている。/Engueuler (v.)◇大きな声を上げて叱ること。よく用いられる俗語。

 「ディエゴはソファーの奥に寝て、弟がテレビの前を通ると怒る。友人たちは外出したが、彼は着いていかなかった。いつものようにひとりっきりの彼の相手を月がしに来るだろう。ディエゴは悲しく、夜に何もしようとしない。運命の女性が見つからなくて落ち込んでいる。でもかわいそうなディエゴよ、君は大変に間違った。君が彼女に出会うのはこのパーティだったのだ」
 Au fond de son canapéは文字通りには「ソファーの奥に」ということだけど、ソファーに手前も奥もないので、そこから動こうとしない無気力を強調するために用いられている表現です。
Sortirは「外出する」だけど、特に遊んだり楽しんだりするために外出することを指すことが多いです。
 Comme souvent seulは「しばしばそうであるように、ひとりぼっちである」ということ。ここではsouventがseulに直接かかる副詞ではないことに注意しましょう。
 Il ne veut rien faire de sa nuitのde sa nuitは「夜を用いて」という意味。
 Femme de sa vieやhomme de sa vieは自分に定められた伴侶のこと。
 Pauvre Diegoは「かわいそうなディエゴ」ということ。Pauvreは名詞の前につくと「貧しい」ではなくて「かわいそうな」という意味になります。ちなみにDiegoはスペイン系の名前なのでエと読むEにアクサンがつきません。
 T’allaisはTu allaisをぞんざいな発音の話しことば風に綴ったもの。書きことばでは用いません。Tu allais la rencontrerは「出会うことになっていた」という意味。

Ah il aurait dû y aller, il aurait dû le faire, crois-moi
On a tous dit : « Ah c’est dommage, ah c’est dommage, c’est peut-être la dernière fois »

 ここはコーラス部分の繰り返しです。フランス語の歌詞は一回目と二回目と変わりませんが、ここでy allerは「パーティに行く」という具体的な意味をもつと考えた方がいいでしょう。

Pauline elle est discrète, elle oublie qu’elle est belle
Elle a sur tout le corps des taches de la couleur du ciel
Son mari rentre bientôt, elle veut même pas y penser
Quand il lui prend le bras, c’est pas pour la faire danser
Elle repense à la mairie, cette décision qu’elle a prise
À cet après-midi où elle avait fait sa valise
Elle avait un avenir, un fils à élever
Après la dernière danse, elle ne s’est pas relevée

Tache (n. f.)◇「しみ、痣」。「業務」の意味のtâche (n. f.)は同音異義語。

 「ポーリーヌは慎み深く、自分が美人だということを忘れている。彼女は身体中に空の色の痣がある。夫がもうすぐ帰ってくるが、それは考えたくもない。夫が彼女の手を取るのは、ダンスをさせるためではない。彼女は市役所のことをもう一度考える。彼女がしたあの決心のことを。荷物をまとめたあの午後のことを。彼女には未来があった。育てなければならない一人の息子がいた。最後のダンスの後、彼女が再び立ち上がることはなかった」
 Pauline elleという風にelleを使ってPaulineを受ける必要はありませんが、elleは語調の関係で挿入されたのでしょう。
 Elle veut même pas y penserとc’est pas pour la faire danserにおいては、neが省略されて口語調になっています。

Ah elle aurait dû y aller, elle aurait dû le faire, crois-moi
On a tous dit : « Ah c’est dommage, ah c’est dommage, c’est peut-être la dernière fois »
On a tous dit : « Ah c’est dommage, ah c’est dommage, ah c’est dommage, ah c’est dommage »
On a tous dit : « Ah c’est dommage, ah c’est dommage, ah c’est dommage, ah c’est dommage »

Ah elle aurait dû y aller, elle aurait dû le faire, crois-moi
On a tous dit : « Ah c’est dommage, ah c’est dommage, c’est peut-être la dernière fois »
Ah elle aurait dû y aller, elle aurait dû le faire, crois-moi
On a tous dit : « Ah c’est dommage, ah c’est dommage, c’est peut-être la dernière fois »

 コーラス部分ですが、c’est dommageを多めに繰り返しています。

Vaut mieux vivre avec des remords qu’avec des regrets
Vaut mieux vivre avec des remords qu’avec des regrets
Vaut mieux vivre avec des remords qu’avec des regrets
Vaut mieux vivre avec des remords c’est ça le secret

Remords (n. m.)◇「良心の呵責」。単数形でもSがつく単語。

 「後悔よりも良心の呵責をもって生きていく方がいい。良心の呵責をもって生きていくこと、それが秘密だ」
 ここはちょっとわかりにくいところですが、remordsは「自分がしたことに対する後悔」、regretは「自分がしなかったことに対する後悔」だと考えるといいでしょう。

 最後に歌詞の全訳です。

残念な話(ビッグフロ&オリ)

いつもの朝のようにルイはバスに乗る
甘い香りのあの娘とまたすれ違った
来る日も来る日も話しかけてきてほしいと期待している
心の奥で感じているのは恋愛感情と呼ばれるもの
でもルイは臆病で、彼女は美しすぎる
席にへばりついたルイは一歩を踏み出したくない
ある日彼女はルイに微笑みかけてバスを降りていった
その日以来二度と見かけることがなかった

やってみるべきだった、そうするべきだったんだよ
残念だ、残念だ、きっと最後のチャンスだったとみんな言った

ヤスミンの声は美しく、自分で才能があるとわかっている
人生の荒波の中で音楽だけが救命具だ
その歌声に世界がひれ伏す
でも「まともな仕事を見つけろ」と父親がしつこく言った
ヤスミンはスポットライトの光の中で称賛を浴び
ステージに花束が投げ込まれるのを想像することがある
でも毎日の仕事に時間を取られているうちに才能が錆びついてしまった
工場での仕事の合間に歌が口をついて出ることがある

やってみるべきだった、そうするべきだったんだよ
残念だ、残念だ、きっと最後のチャンスだったとみんな言った

ディエゴはソファーに寝そべって動こうとしない
テレビの前を通った弟を怒鳴りつける
今晩は友人のパーティだがディエゴは出かけない
いつものようにひとりぼっちでお伴は空の月だけ
惨めなディエゴはせっかくの夜に何もしたくない
運命の女性が見つからなくて落ち込んでいる
でもディエゴ、残念だが君のしたことは大間違いだった
このパーティで運命の女性に出会うことになっていたんだ

パーティに行くべきだった、そうするべきだったんだよ
残念だ、残念だ、きっと最後のチャンスだったとみんな言った

遠慮がちなポーリーヌは自分が美人だということを忘れている
身体中に青い空と同じ色の痣がある
もうすぐ夫が帰ってくるが、それは考えたくもない
夫がポーリーヌの手を取るとしても、それはダンスに誘うためではない
あのとき市役所に行こうと決心して
昼下がりに荷物をまとめたことがあったのにと考えた
ポーリーヌには未来があり、育てなければならない息子がいたのに
最後のダンスの後、二度と起き上がることがなかった

家を出るべきだった、そうするべきだったんだよ
残念だ、残念だ、きっと最後のチャンスだったとみんな言った
残念だ、残念だ、残念だ、残念だとみんな言った
残念だ、残念だ、残念だ、残念だとみんな言った

やってみるべきだった、そうするべきだったんだよ
残念だ、残念だ、きっと最後のチャンスだったとみんな言った
やってみるべきだった、そうするべきだったんだよ
残念だ、残念だ、きっと最後のチャンスだったとみんな言った

しなかったことを悔やむよりもしたことを悔やんで生きていく方がいい
しなかったことを悔やむよりもしたことを悔やんで生きていく方がいい
しなかったことを悔やむよりもしたことを悔やんで生きていく方がいい
したことを悔やんで生きていく方がいい、それが秘策だ

 ちょっと説教臭い歌ではありますが、最初の三人の登場人物の話がどちらかといえば他愛ないものなのに、最後に深刻な家庭内暴力の問題を扱う構成は悪くないかもしれません。このようにきちんとストーリーを語る歌は、ありそうではあるけれどもなかなか数が少ないものかもしれません。ずっと歌の調子が一定で、深刻な話になっても歌声が他人事のように距離を保っているのが効果的だと言えるでしょう。ただし、歌詞では何が起こったのかはっきり言わずに余韻をもたせているのに、クリップで葬式の場面を映しているのは、ちょっといらないことをしたものだと思います。

 この若いラップデュオの歌には上手さがなく、歌詞も以上のように多少素朴なものではありますが、このわかりやすいメッセージが同世代の若者に受けているのでしょう。また、仲間内でしか通じないようなことばや汚いことばを使わないところが、若い世代ばかりでなく上の世代にも好感をもって迎えられたために、今回の受賞にいたったのかもしれません。

(1)ビッグフロ&オリの受賞曲の他に今年のオリジナル楽曲賞にノミネートされていたのは、2000年代初頭に人気があったが一度解散して2014年に再結成したロックバンド、キョーのTon mec、テレビのオーディション番組ザ・ヴォイスに出場して有名になり、映画La Famille Bélierで主演したルアーヌのSi t’étais là、マルセイユのラップグループ、プシキャトル・ド・ラ・リムの元メンバーで、2007年からはソロのラッパーとして活動するソプラノのRouleでした。
(2)B1/B2レベルのフランス語PDF教材が公開されています。歌詞はここからとりました。フランス語教材なのでだいたいは信用が置けるでしょうが、歌詞カードと一致しているかどうかはわかりません。ここでは一箇所だけla Luneをla luneと直しました。 http://www.francparler-oif.org/wp-content/uploads/2017/11/Dommage-Fiche-p%C3%A9dagogique-JDG-.pdf


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